創造的、革新的、情熱的。
ベートーヴェンの音楽性を表すとこうなるだろうか。
そしてことさらに、反権力的。
あらゆる権力に対して、本能的な嫌悪感を示したベートーヴェン。
その思想信条は、自由に生きられない当時の貴族社会で育った女性達にとっては、畏敬の念を抱きこそすれ、共に生きるには世界が違いすぎただろう。
「不滅の恋人」と、最大級の崇高な呼称を捧げられた女性さえも、ベートーヴェンとは共に生きる道を選ばなかった。
※『我が不滅の恋人よ』との呼びかけで始まるベートーヴェンの熱く激しく感動的な恋文からこう呼ばれている。その相手が誰なのかは歴史上の謎。
孤独なベートーヴェン。
その情熱を向けられると身が持たない。
その創造性・革新性を見せ付けられると、凡庸な自分が悲しくなる。
その反権力思想を発揮されると、波及効果が恐ろしい。
ベートーヴェンの力にはなれず、受け入れることもできず、ただ遠巻きに見ている。
尊敬しているが、どう付き合ったら良いのかわからない。
だが、孤独も、苦悩も、絶望も、全てを受け入れ、運命を主体的に享受し、突き抜けた先には光があった。
「苦悩を突きぬけ歓喜に至れ」
ベートーヴェンが自身の生涯から導き出した究極の言葉。
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新月の日から3日目。月は細く鋭い。
繊細だが華奢ではなく、なめらかな下弦の曲線がゆりかごのような安心感とノスタルジーを誘う。
ベートーヴェンはこの普遍的な姿を持つ月さえも創造的な新しい眼で見ていたのだろうか。
その月を左前方に見ながら歩いて行く。
気持ちがはやる。
世界的大ピアニスト・ブーニンが弱冠19歳でショパン・コンクールで優勝したのが27年前。日本でもブーニン・フィーバーが巻き起こった。
そのブーニンの演奏を初めて生で聴ける。
ピアノソナタ「月光」。
ベートーヴェンがつかの間のロマンスの相手、ジュリエッタに贈った曲。
ベートーヴェン自ら「幻想風ソナタ」と記したこの情感溢れる曲さえも、ピアノソナタ形式の伝統を破り、革新を試みている。
※「月光」のタイトルは後に別人がつけた。
試行錯誤をしながら前進していく姿は人の胸を打つ。
心的態度は自分の意思で選択できる。
「苦悩を突きぬけ歓喜に至れ」
ベートーヴェンは死の床で最期の瞬間、虚空に向かって拳を突き上げた。
歓喜の先へ、更に進もうとしたのだろうか。
そこにはおそらく、平安があるのだろう。
(画像上:ベートーヴェンの肖像)
(画像下:「不滅の恋人」への手紙)
本日の気分は「緋色」