「私のために泣け」と言われたら泣けるか。
「私のために死ね」と言われたら死ねるか。
現在普遍的と思われている「愛」の観念は、実はわずか200年の歴史しかない。
ルネサンス以前、愛とは神に対する信心だった。
ルネサンス以降、ヨーロッパで絶対王政が確立すると、愛とは王に対する忠誠に変わった。
そして、革命によって軒並み王政が倒れると、愛は初めて人間同士の真剣な仕事になった。日本には、戦後欧米の文化と共にこの価値観が輸入された。
もともとは神に対する思いだったものを、今では対等な1人の人間に対してぶつけている。
その強いエネルギー故、自分自身の内的な制御が必要になる。
しかし、異性愛が人間愛に昇華していない若い頃は、時に暴走する。
この「オールウェイズ」では、君に言われれば泣こう、死のうと、失った相手を取り戻したいあまり、相手に自分の主体性を明け渡してしまっている。
この甘美な危険。前後見境なく、先の計算などしない若者の特権。
恋愛に夢や希望を持ち、いつも暴走気味だった高校生の頃の私なら、この歌詞に感動しただろう。
驚くべきは、このあまりにも純粋でベタすぎて、感想を書くにも途方に暮れてしまうような歌が発表されたのがジョン32歳の時であり、50歳になった今なお歌えること。
アンドロギュヌスのようなジョン。
33歳のジョンが、ロンドンの弱く優しい夕日に包まれて歌ったその表情は、聖母マリアの母アンナを彷彿とさせる。
それは、この歌の主人公が対象喪失を経験し、絶望し打ちひしがれ、どうにもならないと悟った後、真に相手の幸せを願う人間愛に目覚めることを予感させる。
琥珀色。