先日、ニコ動でまたアルフィーの「木枯らしに抱かれて」を聴いた。
ニコ動でも似たような傾向のリンク先が出るのだが、それに今回、もう一人この曲をカバーした人が歌っているのがupされていた。
その人とは、福山雅治。
この人は特に好きというわけではないので今まで彼の曲を聴いたことはなかったが、せっかくなので聴いてみた。
というのはこの曲自体、J-POPを全く聴いていなかった頃から小泉今日子の歌で自分の心境を重ね合わせていたりしていたので、思い入れが強いのです。
結論から言うと、彼の歌(歌い方)はいいと思うが、この曲に対する私のイメージとは違っていた。
これが彼の解釈なのだろうが、私の好みではなかった。
片想いにしては妙に諦観しているというか、静かで悲しすぎるというか、相手と関わる中で発生する内面的葛藤、抑圧されたエネルギーが感じられない。
以前にも書いたが、もともとこの曲はボレロ調のリズムが全体的にアグレッシブな雰囲気を作る一方で、メロディーは短調で抑えた激情が見えつ隠れつしているので、「片想いが辛い」という主題をよく表していたのに、こんな静かにアレンジしてしまって瀕死の歌い方をされたのでは…。
いや、アレンジされた曲や歌自体は非常に気に入ったのだが。
最も納得行かないところが、終盤の「♪白い季節の風に吹かれ」のところで転調しないこと。
ここは転調と共に歌われるこの歌詞と、それに続く「♪激しく燃える恋の炎」という白と赤の色の対比が鮮烈で、気持ちの高揚、不安定ながらもステージアップした状況、抑圧されたエネルギーの爆発の前兆を感じさせるのに、それがないのではずっと同じ状況のループでストレスを感じる。
片想いというより、まるで不倫の歌のようだとハタと思った。
そう! 不倫の一つの定番ケースの歌と考えれば素晴らしい。
何も失いたくなく、相手を傷つけたくないと言いながら、実は自分が傷つきたくなく、誰からも嫌われたくなく、相手が自分の思い通りにならないと身動きが取れなくなる。他律的でその場限りの幻想のような恋。生きていればそういうこともあるだろう。
ただ、それゆえ相手と真に関わることなく自己完結してしまい、誰にも相談できず、自分の中だけで諦観し納得して自分を慰めている、自分ひとりだけの世界の歌。ガラスでできた兎のような歌だ。
先述の転調しないことを初め、原曲よりややスローテンポで抑揚がなく、全体的に控えめな演奏で、見せ場であるはずのボレロ調の間奏までも同じ調子で流してしまい、不倫のカタルシスとしての歌と考えれば非常にいい歌だと思う。
それにしても、この人は声がすごくイイですね。
合計3回ほど聴いたが、あとの2回は目を閉じて聴いた。
バイオレット。